君が呼ぶ

 俺が部室に行った時、そこには部室専用のエンジェル・朝比奈さんやヒューマノイド・インターフェースであるという長門、そしてSOS団団長のハルヒはおらず、超能力の使える爽やか少年・古泉しかいなかった。その事に、些か驚きを覚えながら、いつもの場所で一人オセロをしていた古泉の前に座った。俺の行動を逐一見守っていた古泉の手には、オセロが手持ち無沙汰に握られている。
「今日はお前一人か」
「ええ。涼宮さんたちはロケだと叫んで十分程前に出て行かれましたよ」
 困ったように肩を竦める古泉から、窓の外に視線を飛ばした。ロケか。朝比奈さんの写真を撮りに行ったのだろう。長門はさしずめレフ板あたりだな。楽しそうに写真を撮る女三人衆を考えて、頬をニヤけさせていたら、不意に古泉の手が頬に伸び、挟まれたかと思うと、目の前にあるのは空ではなく古泉になっている。一体何だってんだこんちくしょう、顔が近いぞ。
「キョン君」
 う、なんだよ。無理矢理絡められた視線の先にある瞳は、どこか恍惚とした光を宿らせている。
「いえ、何でもありません。ただ、」
 ただ、なんだよ。さっさと言えって。
「名前を呼んでみただけですよ、特に意味はありません」
 ふざけたニヤケ面にほだされるまま、赤くなった頬を隠すように視線を外した俺は、それから小さな声で馬鹿と呟いた。


あんみつこにあげました。
絵は貰いました。 物々交換です。
甘いのを目指した。




貴方は振り向かない

「キョン君、」
 ふっとキョンが振り向くと、戸口には古泉が佇んでいた。いつものように、胡散臭い、しかし異性には受けるであろう笑みを浮かべている。キョンは戸惑って立ち上がった。考え事をしていたからだろうか、古泉の気配は微塵も感じなかった。戸惑いに揺れる瞳を見ながら、古泉はクスリと笑った。
「今日は、いい天気ですね、」
「・・・、ああ」
 ゆっくりと部室の机に歩み寄り、椅子を引いて古泉が座ると、キョンも我に返って座った。パイプ椅子は軋んだ音を立てる。古泉はキョンが座ると立ち上がり、怪訝な顔をして古泉を見るキョンを気にもせず、ボードゲームを取り出した。まだ女子部員がいない今、二人がやる事といったら、それしかない。キョンも納得した顔で古泉から受け取り、箱から取り出した。今日はチェスだ。
「そういえば、」
 不意に声を上げた古泉に、キョンはチェス盤から顔を上げた。今のところ勝負はキョンが優勢だ。
「涼宮さんが呼んでいましたよ、30分後ぐらいに呼んで来いって言われました。ちょっと早いですけど、行ったらどうでしょう」
「この世界の安寧のためにも、か?」
「その通りです」
 二人は小さく笑い合う。古泉が駒をボードに置くと、キョンは立ち上がった。その立ち上がったキョンの顔を古泉はゆっくりと仰ぎ見る。彼の目の中に自分がいることに、愉悦感を覚えた。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
 静かに部室から出て行った背中を、古泉は目で追い、窓から見える彼の背中もまた、目で追った。

初書き古→キョン。もっと正確に言うと、古→キョン→←ハルヒ。




07 09 08 くしの実
07 09 14 ちょこっと変更