突然だが、こんなことを想像してほしい。 例えば、の話だ。同学年、或いは違ってもいいが、異性が、自分の周りでウロウロしてたり、見舞いに来たり、顔を近づけてきたりetc・・・。こんなことをしていたとしよう。きっと、そいつは自分に好意を持ってんだーって思うだろ、違うか? ・・・・違ったら、忘れてほしい。そして俺はといえば、多分きっと、きっとだぞ? そう思うに違いないんだ。 ところで、上であげたのはあくまで異性のことであり、そこに同性は含まれない。まぁ常識だよな、普通。俺も含まれるなんて思ったことはない。だが何故だろう。俺の選択肢には、含まれていた。 いつものように、俺たちSOS団団員は、用もないのに文芸部室に集まっていた。長門は相変わらず部屋の隅で本を読んでいるし、朝比奈さんはいつものメイド衣装で鼻歌を歌いながら、お茶を入れていらっしゃる。俺と古泉はといえば、向かい合ってオセロをしているし、ようするに団員は不変的な日常を営んでいるわけだ。だがしかし、かの団長は少なくとも俺がいる時に姿を見せておらず、それは常であれば考えられないことだ。・・・・まぁ、ハルヒはいつも気紛れに生きている。今に始まったことじゃない。そして、その気紛れに付き合わされて疲れることは、俺の中で今や常識となりつつある。そんなわけで、ハルヒが来ようが来なかろうが、大して心配したりしない。少し気にはなるが。 そんなことをボーっと考えていたら、キョン君、とあの甘ーい朝比奈さんボイスで呼ばれた。 「お茶です」 「あ、いつもありがとうございます。俺、飲んでばっかりで」 「うふ、気にしないでください。あたしが勝手にやってることなので。美味しいといいんだけど」 美味しいですとも。貴女が入れてくれたお茶が、うまくないわけがない。例え猛毒だろうと、俺には花の蜜のように感じるでしょうよ。 「そんなことないです。古泉君どうぞ」 「僕も彼と同感です。貴女のお茶は、いつもとても美味しいですよ」 朝比奈さんは照れたようにお盆を抱えて、最後に残った一つを長門に持っていった。そうして、平和な一時が築き上げられそうになった時、地盤もろとも崩したのは、やはりと言うべきかハルヒだった。 「みっくるちゃーん!!!!」 叩きつけるように開かれたドアと共に、姿を見せたハルヒは、上機嫌で片手に持った紙袋を振り回している。朝比奈さんはビクビクとしながら、長門の前にお茶を置いた形で固まっていた。なんというか、そのようなお姿でも美しいが、表情が表情だ。思わず同情してしまう。 ハルヒは部屋に入っても上機嫌、紙袋を振り回すのも止めず、楽しそうに笑いながら、眉を上げている。いつもの事ながら、器用な奴だ。 「みくるちゃん、ネットで新しいコスプレの衣装買ったのに、それがね今日届いたの!!ね、みくるちゃん、着たいでしょ?」 「ふぁっ、やっ、涼宮さん、やめて、やめてくださいぃー」 ハルヒの行動を見守っていた俺は、またまた朝比奈さんの服を脱がせ始めたのをギョッとし、視線を外してから立ち上がった。部室の外に避難しようとドアに手をかけ、転がり出る。あ、古泉、と俺が思ったのと同時に、朝比奈さんの悲鳴を背負い、二人分の湯飲みを持って出てきた。 「おう、サンキュ」 「いえ。また突然でしたね。びっくりしてしまいましたよ」 お前は一体いつ驚いたんだと疑うくらいに、いつものように爽やかな笑みを浮かべながら、古泉はお茶を啜る。 「そういえば」 うん?と俺が問い返す間もなく、古泉の顔が近づいた。耳元に古泉の吐息がかかる。体がギュッと緊張したが、ひゃあぁという朝比奈さんの声ですぐに力も抜けた。 「な、んだよ、顔が、近い、」 「最近、涼宮さんが閉鎖空間を作りません。とても落ち着いてるんですよ。嬉しい限りですね」 耳元で笑うな。・・・くすぐったいんだよ、バカッ。俺が憤ったように古泉の顔に手をやると、おやと言いたげな顔をして体を引いた。数秒間黙り込んだような沈黙が続き、少々、いや結構気まずい。俺が気まずさから身動ぎしたのと、中からいいわよーと声が掛かるのは同時だった。これこそ、正しく神の救いなわけだ。待ってましたとばかりに、俺は取っ手に手をかけた。 向こうに立っていた朝比奈さんは、いわゆるロリータの服を着ていた。薄いピンクのドレスのような感じで、ふんだんにレースが使われている。幼い顔の朝比奈さんには、確かに良く似合っている。いや、このお方に似合わない衣装などないに違いない。だが、敢えてピンクを選んだハルヒに、感謝の舞を捧げたいぐらいだ。 さて、話を冒頭に戻そう。 俺の選択肢には同性も含まれていて、その同性がかっこいいものだから、俺はうっかり、あまりにもうっかりしすぎているように思うのだが、・・・・まぁなんだ、ようするにほだされてしまったわけだ。 例えば、そうだな。あいつの字が汚いという事に、不覚にもときめいたり、二人きりだと緊張したり、顔を近付けられたら意味もないのに赤面する。あー、自分でも気持ち悪いぐらいに乙女だな。 だがしかし、それがあいつに帰結するならまぁ、なんて思うあたり、相当毒されているわけだ。 俺もどうしたもんかね。 |