真昼間のシャワー
カイトが目を覚ましたのは、ちょうど昼ごろだった。カーテンが閉め切られ、それでもカーテン越しに入る僅かな光で薄暗い部屋の、天井が見える。カイトは身体を起こし、キョロキョロと周りを見回した。カイトが眠っていたのは、寝室のベッドではなく、リビングのソファで、さらに身には何も纏っていない。 「起きたか」 ぼうっとした頭の隅に何かが引っかかっており、それを思い出そうとしていたカイトの耳に、男の声が聞こえた。つっ、と顔を上げると、テーブルに座っている男の姿が見える。薄暗い中で、何をしているのだろう、と思い首を傾げた。 男はそれっきり黙り、カイトに何も言わない。カイトも、大切な何かを思い出そうとする時間が出来て、有難い。 何か、何かあった筈だ。でなければ、何故全裸で、昼間で、しかもリビングのソファで寝るものか。男は、アンドロイドのカイトの所有者だったが、カイトがここで眠る理由を、何一つとして話す様子は無い。 はぁ、と小さく溜息を吐き、だるさを訴えてくる身体に鞭打ち、立ち上がった。する、と首の後ろに手を回すと、汗で湿っている。 「汗…?何で?ここの部屋、暑いのか…?」 不審に思い、背中に手を回したが、同様に汗ばんでいた。腹や胸に手を当てても、同じだ。カイトは思考が追いつかず、呆然と男に顔を向けた。男はカイトを見ようとはしない。下肢で、何かドロリとした物を感じた。 「マス、タ、あの、」 カイトは戸惑ったまま声を掛けた。男は微動だにもせず、テーブルに置かれたカップを口に運び続ける。 俺、まだお昼なのに、汗かいてます。運動だってしてない筈なのに。マスター、俺、シャワー浴びなきゃ。 カイトの声は、淡々としていた。男のそうか、と答える声の方が、よっぽど震えている。 「なら、浴びて来い」 「はい」 カイトの剥き出しの下肢から、赤い筋がいくつも垂れていた。風呂場に向かうカイトを横目で見た男の目に、その光景が映る。虚しくなる光景だった。見なければ良かった、と思うも、見てからでは遅い。 男は立ち上がり、ソファの前に立った。カイトの下に敷かれていたタオルは、ぐちゃぐちゃとなってそこに在る。男はそれを摘まみ、風呂場へある洗濯機へと向かった。 |