歌うことが全て
ずっとずっと歌えればいいと思った。 KAITOのようなボーカロイドにとって、歌うのが全てだ。一から無限まで、全て歌に捧げる。 だから、箱の中で半永久に眠り続けることや、PCのハードディスクの奥で眠ることは、KAITOやミク、全てのボーカロイドたちにとって、死と同様の意味だ。 勿論、アイスがあればもっといい。しかし、これはいわゆる嗜好品で、なくても生きていける。ボーカロイドにとってなくてはならないものは、既存でもオリジナルでもいいから歌だ。とにかく、彼らは歌がなければいけないのだ。 「歌ー・・・・。歌くださいマスター・・・・・」 「ごめんね、KAITOちょっと待ってて。今あたし試験中なの。本当にごめんね」 試験中なら仕方ないです、とKAITOが唇を尖らせた。彼女はゴメンネ、と眉を下げ、向こうに消えた。 PCの隅で膝を抱えたKAITOは、暗くなった画面から外を覗こうとした。しかし、KAITOのマスターは電源を切ってしまったらしい。ペタペタ、と画面に触れてみるが、全く動く気配も無い。ハァァァ、と深く溜息をつき、歌おうと口を動かして、覚えている歌すらないことに絶望を感じた。KAITOには、マスターがいなければいけないのだ。 「マスター・・・・・。早く戻ってきてください・・・・」 俺には歌を歌わせてくれる人がいないと、まるっきり駄目なんですよ。 すっと目を伏せると、睫が影を落とす。まだ彼女が戻ってくるのは、一週間程もある。どうしよう、とKAITOは嘆きの境地で画面に頭を預けた。そのままゆっくりと意識が落ちていく。 「KAITO?あれー、あたしの調教が悪いのかな・・・。全然歌ってくれない・・・・」 KAITOははっ、として周りを見回した。そこかしこに楽譜が散らばっている。慌ててそれを拾い上げ、必死に音を追う。 「あっ、少しよくなった!!ごめんね、KAITO。機嫌悪くしてた??」 「ちっ、違います、マスター!!ごめんなさい、今まで意識が無かったんです・・・」 マスターに頻りと謝れば、やだぁ、と泣きそうな声が返ってきた。顔を伏せている彼女の姿に、KAITOは心が温かくなる。自分がいるのは、この人がいるからこそだ、と再確認した。やっと構えて貰えた事が嬉しくて、顔を綻ばせる。 「マスター、あの、」 何?と彼女は問い返す。優しい声で、KAITOの声を調整してくれている。 「ありがとうございます。歌えなくて、ずっと・・・・ずっと寂しかったです。だから」 彼女は、キョトン、としてから、ふわりと笑んだ。唇だけで、ずっと一緒だから、と零す。KAITOも、ニコリと笑んだ。 |