カタカタというタイピングの音と、女歌手の声だけの部屋で、俺は寝ていたようだ。炬燵の温かさで、どうやら数分程ウトウトとしていたらしい。さっきまで、有名な女歌手が歌っていた筈が、いつの間にか司会者に移っている。 「もうあと、十分もすれば新しい年ですね。一年を振り返ってどう思いますか」 「そうですね、今年は・・・」 愈々、今年が去年になる日が、近づいているらしい。ボーッとした頭を緩く振って起き上がり、机に肘を付いた。 来年の十二時、要するに後十分程後の事だが、古泉と二人か。今年、つまり今から一年前―そう丁度一年前だ―、ハルヒ、朝比奈さん、長門、そして俺と古泉含む五人で新年は祝った。それも、去年が高三で、俺や長門、ハルヒ、古泉がまだ同じ高校だったからだ。まぁ朝比奈さんの場合、高校卒業されていたのだが。 それにしても考えてみれば、今年も後十分しかないのか。相変わらず忙しい年だったよな。 「もうすぐ、今年も終わりますね」 気付いてみると、古泉も炬燵に足を入れて座っている。そうだなぁ。そう零しつつ、テレビの画面に目を向ければ、今度は全員合唱が始まっていた。 本当、今年も騒がしかったぜ。 「確かに。でも、いつかの時よりは、断然いいじゃないですが。以前は貧乏暇なし、というぐらい忙しかったですからね」 古泉は、炬燵の中央にあった籠に手を伸ばし、そこから蜜柑をとって剥き始めた。 「今年は高三から大学の節目だったしな。大学も違っちまったし、なかなか会えないし」 とは言えど、相変わらず土日祝は不思議探索を行っているわけだが。 通りを歩く人の姿は見えない。まぁそれも当然だろう。真夜中だし、家でテレビを見たりとか、恋人と語り合いながら年を越すってのも、多いんだろう。くそっ、恋人と年越すなんてな、自分で言っててそいつらがムカついてくる。勿論、テーマパークとかのイベントで、年越す奴もいるんだろうが。それも羨ましいよな。 「どうぞ」 一人で現実逃避していたら、俺の手元に蜜柑が置かれた。ちゃんと剥いてある。あの白い筋、なんて言うんだったか、とにかく、それまで丁寧に取り除かれている。 「サンキュ。どうでもいいが、お前なんで筋とってるんだ?しかも律儀に、全部」 「え、いや、僕が苦手でして」 「お前の基準で剥いてどうすんだよ・・・」 別にあっても無くてもいいわけだが。大して変わらんし。 「そ、そうですか」 ・・・・怒ってるわけじゃないぜ、そんなあからさまに落ち込むなよ。 後五分、テレビには有名な神社や寺が写り始めた。どうやら紅白は終わったらしい。皆神妙な顔で、坊さんの読経を聞いている様子が写った。除夜の鐘が鳴っている様子も写る。 考えてみりゃ、もう新しい年を迎えてる場所もあるのか。ん、どこだったかな。確か、日本は新年を迎えるのは早いほうだったと、記憶はしているのだが。 そういや、今年は蕎麦ないな。 去年は、ハルヒがいつもみたいに「季節ネタは踏襲すべきなのよ!」と、蕎麦を準備したからな。ちなみに、これは勿論三人娘が作ってくれた。朝比奈さんや長門の手料理が食べられるなんて、一年前の俺を恨む。 「今年は、蕎麦なしの年越しですね」 お前も同じこと思ったか。俺も今思ったところだ。 「やっぱり何だか寂しいですねぇ。今から作りましょうか」 どう考えたって遅すぎじゃねぇか。もう後、一分ちょっとか。 早かったな、この一年も。窓の外では雪がチラリチラリ、と舞い、テレビ画面の中でも雪が舞っている。雪ってのは神聖なもんだと思うんだが、どうしてだろうね。そういや、長門も「ゆき」だ。 「今年は雪で締めくくりですか。なかなか風流ですね」 「風流かどうかは知らんが、俺も同感だな」 うーむ、二人で暮らし始めて、思考回路も似始めているらしい。なんとも複雑な気持ちだ。 遂に後二十秒ほどだ。 「もう今年も終わりですね」 「あぁ。・・・今年は一年間、有難うな」 「いえいえ、こちらの方こそ有難う御座いました。貴方の方がいろいろしてくれたでしょう?料理全般、貴方がやってくださったじゃないですか」 そりゃお前の料理が壊滅的だからな。あれは食べ物じゃねえだろ。 古泉は微苦笑して、画面を見た。 「あ、後五秒ですよ、ほら、」 全国の皆さんが、大声でカウントダウンしてるのではないだろうか。俺も、思わず呟いていた。 三、二、一、 明けましておめでとう御座いまーす。ハイテンションで全国の皆さんが叫ぶ。ここで言う全国の皆さん、ってのはテレビの中で笑ってる人たちで、正確にはちょっと違うんだが、強ち間違っても無いだろう。俺は何故かだんまりになって、テレビの中でキャアキャア騒ぐ芸人や有名人を見つめた。 「明けましておめでとう御座います」 横から涼やかな声にそう言われ、俺は口元に笑みを浮かべた。 「あぁ。明けましておめでとう、」 その次はもう常套句だ、有名なあの言葉に決まってる。 「今年も、よろしく」 「今年もよろしくお願いしますね」 |