沖田の目には死んだ魚のような目をした万事屋が映っていた。
 生気のない瞳はいつ輝くのかとふと疑問に思った。そんなこと尋ねもしないけれど。普段は感傷的にはならないが、あまりにも赤すぎる夕焼けにつられたのかもしれない。沖田は微かに目線を上げて万事屋――坂田銀時の瞳をその美しい瞳で見つめた。ふ、と銀時のふわふわの髪が揺れた。
「旦那・・・」
 掠れた声が出た。自分の声とは思えない低い声だった。
「旦那、俺は・・俺は」
 表情を変えない銀時にふつふつと怒りが沸いた。
(俺の手は、血まみれだ)
 手のひらは綺麗だけれども見えない血痕が染み付いて消えない。視界から去ろうとしない朱色に冷や汗が垂れた。何度こすっても、拭っても朱色は筆を返すように広がっていく。
「どしたん、沖田くん」
 いつの間に移動したのか沖田の目にかなり近くへ移動した銀時が見えた。驚きを隠せずに息を呑む。困ったように微笑んで銀時は頭をかいた。彼なりの照れ隠しなのかもしれない。その頬が夕焼けで赤く染められていて、赤面しているようにも見えて、沖田はやっと正気に戻ったかのように笑みを浮かべた。硬かった表情に赤みがさす。
「旦那、そんなに見つめないでくだせぇよ」
 冗談交じりで言うと、銀時はいつもと違う表情を見せて沖田の髪を一掴み手のひらへ流した。つるりとした感触が心地いい。
「さっき、何言おうとしてたの」
「別に、少し感傷的になっただけでさァ」
 肩を竦めて呟くと、沖田はそれじゃ、と言って手をひらりと振った。細く長い指が夕焼けによって赤く染まる。銀時はしばらく沖田の背中を見つめて、やがて歩き出した。
(夕焼けで毒々しい血も消えてくれたらいいのに)
 夕焼けに手をかざして沖田は自嘲気味に口の端を吊り上げた。












07 10 25 きなこ