俺の周りには大雑把に分けると、猫と犬と猪と牛がいる。 その中でも、今日は、六道骸という名の猫について話そうと思う。 彼は、常に俺から付かず離れずの距離を保って、こちらの様子を用心深く伺っている。 他の5人のように、競って俺の傍にいるのではなく、いつだって離れたところでそっぽを向いて、それでも目の端だけでこっちを見ている―――そんな感じかな。 だから、俺はいつもあいつを気にかけるんだ。 あいつは自分からは決して擦り寄ってきたりしないから。 ―――あぁ、それにしても、なんて扱い難い猫なんだろう! 猫の皮をかぶったウサギ ふむ、困った、元家庭教師のお遊びに付き合ったのを気付かれたらしい。 そんなことを思いながら、いつもの通り書類に目を通しつつ、俺は完全に臍を曲げてそっぽを向いてしまった(もちろん、実際にそんな態度をとったわけではない)霧の守護者への対処法について考えていた。 が、午後の心地よい日差しが、脳の回転率をいつも以上に下げる。 「寝てんじゃねーぞダメツナ」 「おわっ、て、リボーン!背後から蹴るなって言ってるだろ!」 「気付け」 「無理があるよ!」 常時気配のない人間の―――しかも自分の背後にいて、椅子の背凭れに隠れて見えない人間の一挙一動に気を配れというのは無茶な注文だ。 しかも、考え事をしていたならなおさら。 「だいたい、お前が面白がってマーキングしまくるからこんなことに・・・」 「よく言うぜ、マーキングされんの好きなくせに」 「・・・否定はしない」 「おぅ」 今年で御歳18歳におなりあそばされた最強のヒットマンは、俺の返答にその美貌をにんまりとした笑いに染める。 俺はそれを複雑な気分で見ながら、溜息をついた。 ―――お前、いつからそんなに俺大好き人間になったんだっけ。 そう問いかけようと思ったが、そう言えば最初からそうだったかも知れないなんて思い直して口を噤む。 リボーンは、どうやら俺が骸を気にかけるのが気に食わないらしく、よくこうやって俺と骸を邪魔しに来る。 お母さんを再婚相手に取られると思っている子どものようだ、なんて言っていたのは雲雀さんだったか? 俺は18歳の子がいるような年齢じゃない、と言い返したら、君は相変わらずだね、と呆れられたのを思い出した。 「はぁ、また骸は雲隠れだし」 「霧なのにな」 「あーもう・・・って、まぁ、俺も悪かったのは認めるけど・・・」 骸を気にかけながら、若いリボーンの誘いにほいほい気軽に乗った俺って、最低なのかな。 ・・・深遠な問題(俺的な意味で)になりそうなので、一旦その方向の思考回路を遮断して、いつも軽薄な笑みの浮かぶ守護者の端麗な容貌を頭に思い描いた。 先ほど書類を提出しに来たとき、いつもの表情が少しだけムッとしたものに変わったのに気付けるのは、俺と凪と千種と犬だけのような気がする。 「リボーン、ちょっと俺席を外す・・ぅぅぅうう!?」 何だ、反抗期か、万年反抗期なクセに! 反抗期の息子に銃器を向けられる親なんて、ネグレクトしてたヤツらばっかりだと思ってたけど、何で俺は今、あの硬くて冷たい黒いものを向けられてるんだろう!? 俺、これでもかって構ってきた自覚があるよ! その後、なんだかよく分からんがゴネにゴネるリボーンを宥めすかして、今度一緒に最近評判のジェラートを食べに行くという約束で解放された俺は、もう一人の困ったちゃんを探して屋敷を歩いていた。 俺、マフィア廃業して保父さんやろうかな・・・。 一瞬遠い目をしかけて、ちょうど開いた扉から出てきた凪を見つけたので現実世界に立ち止まる。 「ボス」 「やぁ、凪」 ちょうど向こうもこちらに気付いたらしく、某困ったちゃんとは似ても似つかぬ愛らしい容貌をこちらに向けて、小首を傾げてきた。 ―――ん、その視線に若干の棘が含まれているように感じるのは、俺の気のせいですか。 「ボス、ダメだよ」 「―――・・・ん」 「骸様にはボスしかいないのに」 「いやいや、凪だって千種たちだって」 「違うよ、ボスだけ」 相変わらず、不思議と気圧される雰囲気を放ちながら、凪はそれだけ言うと踵を返して廊下を歩いていってしまった。 それを為す術なく見送って、俺は先ほど凪が出てきた扉に向き直り、ノックしながら扉を開ける(ノックの意味がない、とよく雲雀さんあたりにド突かれるけど、もうこれが癖になってしまっている)。 「骸―――?っていねぇし!」 いや、普通にいると思ってドア開けた俺、結構所在無いよ! そんな風に嘆きながら、がらん、とした執務室を見回して、溜息をついた。 どこに行ったんだか・・・と考えを巡らせたところで、面倒くさくなって自分の唯一の取り柄を行使することにする。 何となく、屋敷の中には居ないが屋敷から離れていない気がする。 「庭、か―――屋根?」 どこの思春期ですか、何あったら屋根って。 俺の部下達って、絶対的に情操教育が不足している気がする。 今更の反抗期とか。 足を階段に向けながら、俺は部下の研修カリキュラムに「道徳」を入れるかどうかを割りと真剣に思案していた。 「骸」 「―――なんです、こんなところに」 「いや、だって、お前がここに居たから」 風はない。 日差しは柔らかくて暖かい。 ―――おぉ、これは意外と良い昼寝場所かもしれない。 そんなことを思いながら、緩やかに傾斜のついた屋根に腰掛けている骸へと歩み寄る。 そして、お手伝いさんに頼み込んでもらってきたベッドシーツを広げて、骸の腰掛けている場所の斜め下辺りに敷いて、そこにちょこんと座った。 人は、隣より、真正面より、斜め前で話すほうが、無駄な警戒をしない。 「ここ、良い場所だな」 「わざわざそんな下らないことを・・・暇なんですか」 さっきの凪以上に刺々しい言葉を聞き流しながら、シーツの上に寝転んだ。 雲がちょうど太陽を隠してくれたので、そう眩しくもない。 「俺さぁ、さっき凪に怒られたんだよ」 「だからなんですか、僕に一体なんの関係があるんです。―――気分を害されました、僕はこれで失礼しま」 「骸」 あからさまに不快そうな顔をして立ち上がった守護者を、“ボス”の声で呼び止める。 何だ、と問い返してくる視線に、にっこりと笑って、別に、と返せば、オッドアイに殺気が灯った。 それを笑っていなし、遠慮会釈なく飛んできた攻撃を避ける―――あ、シーツに穴が。 「骸、あのさ、ちょっと俺、困ってるんだよね」 「そのまま困り続けてればいいでしょう、僕には関係ない」 瞳の数字が変わっていくのを見ながら、相変わらず危機感は湧いてこない。 だって、本気を出せば俺のほうが強いことをお互いに知っている。 「でも、骸に関して困ってるんだ、俺は」 「・・・は?」 「だってお前、いっつも俺にツンケンしてばっかでさ。そのくせ俺が他のと仲良くしてると怒るし」 「なっ!誰がいつそんなことを!」 「お前が、今、此処で」 「・・・っ!」 自覚はそれなりにあったらしく、骸の瞳が気まずそうに逸らされた。 「だから、どーしよーかなーって。ほら、別にただの部下なら、そのまま放置プレイでも良かったんだけど・・・お前だし、ねぇ?」 そう言いながら横目でちらりと骸を見上げれば、俺の言葉の意味を測りかねているようで、整った眉が少しだけ顰められている。 よし、ここで畳み掛けるべし。 「俺としては、骸にそんな風にむくれられるのはちょっと嬉しいんだけど―――愛されてるみたいに錯覚できて」 その言葉に、骸がはっとした表情になった。 ・・・よしよし、ノってきたノってきた。 「でもやっぱり、そういう勘違いって良くないよなって思う―――」 「そんなことは―――っ!!!!」 俺の言葉を遮って言葉を発してから、骸はあからさまにしまったという顔で自分の口を押さえたけれど・・・後の祭り。 「そう?」 「〜〜〜知りません!勝手にすればいいでしょう」 「じゃぁ、骸が俺のこと大好きだって勘違いしてて良いかな」 「・・・」 「うん、俺も大好きだよ、骸」 俺はそう笑って、口元を押さえたまま顔を背けた守護者に擦り寄ると、彼の膝より少し上辺りに頭をくっ付ける。 それを避けないで、そのままにさせてくれる辺りに、骸の愛を感じる俺って間違ってるだろうか。 言葉のキャッチボールなんて、端からする気なんてない。 ただ、骸という名の猫は、見かけと振る舞いに似合わず臆病で寂しがり屋だから。 時々構ってあげないと、寂しすぎて死んじゃいそう。 ―――・・・ん?これって、ウサギか。 俺の周りには大雑把に分けると、猫と犬と猪と牛がいる。 でも細かく言うと、猫と、猫の皮をかぶったウサギと、犬と、猪と、牛がいるのかも知れない。 そんなことを思いながら書類を捲っていると、どうやら俺に読心術を使ったらしいリボーンが、背後でぽそりと呟いた。 「―――犬の皮かぶった狸もいるぞ」 ・・・ごめん親友、思わず納得しちゃったよ。 fin. わぁ・・・この骸極限に気持ち悪くて恥ずかしい・・・っ(吐血) そして嘉月、ツンデレの意味を取り違えている気がしてなりません・・・!!orz どこがムクツナなんでしょうね!?どこなんでしょう!!?(聞くな) あぁ、せっかく、くしさま方の1万Hit記念だというのに・・・こ、こんなものしか差し出せない嘉月で申し訳ありません・・・!!! あぁああぁああ・・・なんと申し上げたらよいのやら・・・と、とりあえず、煮るなり焼くなりお好きにしてくださいませ!! こんなんですが、本当に1万Hitおめでとうございます!! |