D&d
それにしても、人の時間というのは不思議なもんだよな。アインシュタイン博士が考えた相対性理論ってやつがあるが、あれは最もだと思うぞ。俺は今、身をもって体験してるからな。
それというのも、家にいる俺が心配で、早く家に帰りたいから他ならない。見付かってないだろうか、ととても心配だ。あいつは自分自身を俺の分身みたいに言うが、そのせいか俺とちょっとばかし違うし。何がって発言というか、喋ることというか。俺はあそこまで寡黙でもないし、簡潔に喋ることもない。なんというか、外見が俺で中身は長門、とでも言えばいいか。だから、もし仮に―仮にでもこんなことは考えたくないが、―お袋に見付かったとして、あいつは誤魔化せないように思うのだ。
だから一刻も早く家に帰りたいのだが、一時間もない授業すら長く感じる。やっと終わったと思っても、まだ昼休みだ。授業はまだ二科目も残っている。とりあえず、昼食は抜きにしてもいいから、一回家に帰ることにした。いくら長い休憩時間といえど、校外にでることは禁止されているのだが、裏門からこっそりと抜け出す。途中でコンビニに寄って、弁当を買うための財布も忘れない。朝食すら食ってないわけだから、あいつは相当腹が減ってるんじゃないだろうか。しかし、時間内に戻ってこれるか、これ。いっそのこと、早退にしておけばよかった。坂道は、下るのは簡単だが、上るのが大変だ。
途中コンビニに寄りつつ、ひたすら走って家に向かう。自転車を使うということまで、考えが回らなかった。自宅の門扉の前に辿り着き、息を整えながら腕時計を見てみると、ほぼ二十分弱で家まで帰り着いてる。くそ、帰りの時間がヤバイ。
慌てて門を開けて、玄関のドアに手をかけた。どうやら母親は買い物にでも行っているらしい。鍵が掛かっている。慌てすぎて、何回も失敗しながら、財布から鍵を取り出し、ドアを思いっきり開けた。適当に靴は脱ぎ散らかして、階段を駆け上がる。
もう一人の俺は、しっかり部屋に居た。俺の洋服箪笥から勝手に服をとったようで、俺(私服)は休日の俺の格好でベッドに腰掛けている。
「学校は」
学校は、じゃねぇよ。お前の昼飯を買ってきてやったんだ。
俺が行きも絶え絶えに言うと、僅かに首を下げて俺の手に提がったコンビニの袋を眺め、また俺に視線を向けた。そういうワケ分からんアイコンタクトはいいから、これ食べててくれよ。俺は早く学校に戻らねばいかんのだ。
俺の心を読み取ったのか、俺(私服)は俺の手からコンビニ袋を取った。
「食べ終わったら、また大人しくしててくれ」
俺(私服)が頷くのを見届ける前に、俺は部屋を飛び出した。そうのんびりと歩けるわけもなく、マラソン大会の再来だ。俺は走りながら、心の中でだけ溜息をついた。
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